歳時記から季語をたのしみます

歳時記から、今の季節にふさわしい季語を選んで、季節を実感しましょう

桜の花も散った頃の季語

満開だった桜も散ってしまいました。

あと少しでもう初夏の気候です。

咲いている花もつつじ、ふじ、などですね。

今頃の季語と言えば、

落花残花遅桜 などの花あとの季語や、躑躅 などの花の名前があります。

落花は、桜の花びらが散ること。残花は、ほとんど散ってしまった桜の木に咲き残っている花のこと。遅桜は、遅れて開いた桜の花。

 



・雨足の中に落花のあるところ     稲畑汀子

 

・残花とも遅桜とも吉野山       稲畑汀子

 

 




・さきそめし藤の花まだ棚の上     恒成久美子

 

・夕闇にいつまで白き躑躅かな    久保田万太郎

  

 

桜咲くころの季語

桜咲くころ、山々にてんてんと山桜が見えます。

 

花見に出かけるひとびとは、寒い季節が過ぎ、さあ何か新しい事が始まるような、それでいてなんとなく物憂げな感じです。

 

桜に関連する季語は、たくさんあります。また、俳句では、花として桜を表すことも多くあるようです。

 

初桜山桜枝垂桜朝桜夕桜里桜桜吹雪八重桜、などなど、まだまだたくさんあります。

 

そして、 も季語に使われています。

 



・初桜折しもけふは能日なり     松尾芭蕉

 

・青空にひと枝咲きぬ初ざくら    日野草城

 

・さまざまの事思ひ出すさくらかな  松尾芭蕉

 


・提灯は恋の辻占夕ざくら        高浜虚子

 

・うかれける人や初瀬の山桜     松尾芭蕉

  

 

桜は綺麗です、咲いているときも散り始めても綺麗です、

でも、桜を見ているとなぜか物憂いな気持ちになることがあります。

咲いてから散るまでの期間が短いからでしょうか? それとも 寒かった季節の余韻が残っているからでしょうか?

そのような、情景を詠めたら楽しいことでしょう。

春の海辺の季語

春の海辺には、いろいろな季語が詠まれています。

雁帰る若布刈り磯菜摘む磯遊び、などなどです。

 

雁帰るは、冬を過ごした雁が北へ帰る様子を詠みます。

行く雁名残り雁などとも、また、春になっても帰らずに残っているのは、春の雁残る雁と詠みます。

・雨と見て戸ざす茶店や雁帰る      佐藤紅緑

 

・川沿いを海の空へと雁帰る       大崎紀夫

 

・西吹いてかすみの空に雁帰る        静岩

 

磯辺には、磯菜摘む磯遊び若布刈、などなどが詠まれています。

磯菜摘む、海水の温度も上がってきたころに磯に出ていろいろな海藻を摘む様子です。

磯遊び、春の大潮のころ、潮が引いた磯に出て、貝を拾ったり海藻を摘んだりして遊ぶことを詠みます。

 

・潮の中和布を刈る鎌の行くが見ゆ    高浜虚子     

・波白くなりて寒しや磯遊び           福田蓼汀



 

若布刈、若布を刈り取る様子です。長い竹の竿に鎌を付けて刈り取ります。

若布干す刈り取った若布の天日に干すこと

若布を和布と書くこともあります。

 

 

春、景色がぼんやり見える頃の季語

大気が水蒸気を含んで、もの物がぼんやりと見えるようになる春の季語。

春の夕焼け、春の月、朧、朧月 などがあります。

 

 

春の夕焼け春夕焼は、他の季節の夕焼けよりもゆるやかな、やわらかい感じのする夕焼けを詠みます。

夕焼は、夏の季語にまります。

 

・夕凪の春夕焼けにとび一羽

 

・江の島に春の夕焼け朧富士   静岩

 

 

春の月、朧月、春月、は、光がぼんやりと滲んだ月を詠みます。

だけでは、万物がぼんやりと見える様子です、音や影などにも詠まれることがあります。

 

・海沿いの社に眺め朧かな

 

・古社いわれは知らず春の月

 

空気も景色もふんわりの時の季語でした。

 

 

風の強まる春の季語

春も進んでくると、風の強く吹く日が増えてきます。

でも、冬の頃の冷たい北風から、少しづつ東の風から西南の風へと変わってきます。

このころの季語は、東風(こち)木の芽時春の雲春嵐と春疾風(はるはやて)などがあります。

 

 

東風は、こちと読みます。

春先に吹く風のことです、まるで、春を運んでくるように吹いている風を詠みます。

桜が咲いているころの桜東風、朝に吹く朝東風、夕には夕東風、そして強く吹く強東風も詠まれています。

 

何と言っても有名な歌は、菅原道真の和歌

 

・東風吹かば匂いおこせよ 梅の花 主なしとて春をわするな

でしょう。

 

・しなやかな一樹有りけり東風月夜

・花散らす音に目覚める東風の朝

 

木の芽時は、木が芽吹く時期を詠みます。

この時期は、冬を過ごしてきた人の体にも変調が起きやすいようです。

・ひと雨に山がふくらむ木の芽時

・くさみして目くすり差して木の芽時

 

春の雲は、空にふんわり浮かぶ雲を詠みます。

すこし、霞んだ空に浮かぶ、やわらかそうな雲です。

・浜ひとり歩みを止めて春の雲

 

春嵐と春疾風(はるはやて)

春嵐は、春先に吹く雨を伴うような強い風。

春疾風は、雨はともなわい春のほこりっぽい突風。

・古寺の参道濡らす春嵐

・拝殿のしめ縄ゆらす春疾風

 

季節の変わり目の時期の季語でした。

 

 

もうすぐ春本番のころの季語

梅の花が、そろそろ散って少しづつあたたかな日差しを感じるころ

3月の初めの頃でしょうか。

 

この時期の季語として

雨水春寒風光る、そして などがあります。

 

雨水は、二十四節気の一つで、立春後十五日目のことですが、

 この時期、降っても雪にはならず、雨になり草木も芽吹くころの情景を詠みます。

 

古道を寺に向かいて雨水かな    

川の面の波立ちいたる雨水かな

 

春寒は、春を感じさせる気候になって来たのに、今日は、また寒い日です。と言った気候です。

 

類語に余寒がありますが、こちらは、春と言ってもまだまだ寒いです。

 

北吹いて浜の散歩は春寒か     

春寒の朝日を写す地蔵尊

 

風光るは、春の日差しが強まり風が光るように感じられることを詠みます。

 

捨ておきし鉢に花芽や風光る  

道光る空も光りて風光る

 

梅は、早春に咲く梅の花春本番になると桃や桜に交代します。

 

紅白の傘みるような枝垂れ梅

風吹いて枝垂れ重なる梅二本

春の歳時記から 春の霙(みぞれ) 

早春の季語として

春の霙 があります。 はるのみぞれ です。

 

立春をすぎると、暦の上では春と言っても、

まだまだ寒く、冷え込むと雪になることがありますが、

やはり間もなく雨に変わることが多くなってきます。

春の雪と雨とが混じって降るみぞれを季語として、はるのみぞれと詠んでいます。

春の霙 春霙 

 

人恋し春の霙の桐火桶     富安風生  

松の葉にざらりと積もり春霙  笠原風凛

春霙鉢の金魚は沈みけり      静石  

 

 

春なので、雪ではなく霙になったと詠むのでしょうか?

それとも、春とは言へ、まだまだ寒いと詠むのでしょか?

似たような

春の霰 はるのあられ

春の霜 はるのしも

 なども詠まれています。